いちばん大事なのは挑戦すること
山本伸一の一行が宿泊するホテルは、コロンボ市内の繁華街の一角にあった。三階建ての大衆的なホテルである。軒下には、何人もの人が寝ていた。
チェックインを済ませると、皆、伸一の部屋に集まった。
伸一は長イスに腰を下ろし、橋本浩治に声をかけた。
「今日はありがとう。ところで、橋本さんは、今、何歳なの?」
「二十七歳です」
「そうか。すると、まだ青年部だね……。今、セイロンには、あなた以外には一人しかメンバーはいないが、やがて、ここにも地区をつくろうと思っている。
その先駆けとして、あなたに男子部の隊長になってもらおうと思うのだが、どうかね」
当時は、男子部の地区の中心者を、「隊長」と言っていたのである。
「隊長ですか。私には、そんな厳しそうな役職は、とても、全うできそうもありません。それに、何をすればよいのかも、わかりませんから……」
「具体的に何をするのかは、青年部長の秋月君に教わればよい。また、やれるかどうかは、実際にやってみなければわからない。
青年にとって一番大事なことは挑戦です。自分では無理かもしれないと思っても、そこに挑戦していくところに成長があるし、自分の境涯を開いていくこともできる」
「しかし、私には……」
橋本は、本当に困ったような顔をした。
伸一は、無理強いするつもりはなかった。橋本のこれまでの経緯からすれば、本人によほどの決意がない限り、隊長に任命しても、その責任を果たし、組織を建設していくことは難しいにちがいない。
伸一は言った。
「ともかく、今のあなたにとって、重要なことは、広宣流布の使命を自覚することです。
どこの国にいても、どんなところへ行っても、自分に縁した人に仏法を教え、自分のいる場所を寂光土にしていこうという一念をもつことです。それがあなたの人生を荘厳し、揺るぎない幸福を築く、原動力になるんです」
橋本にとって、これが人生で初めて受ける、本格的な信心指導であった。彼はしばらく考え込んでいたが、顔を上げると、「隊長として頑張ります」と、元気な声で答えた。
橋本は、このときの伸一の指導を、忘れなかった。一年八カ月後、彼は大使の転任に伴い、一緒にノルウェーに移り住むが、そこでも現地の中心者となり、広宣流布の道を切り開いていくことになるのである。
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『新・人間革命 第3巻』月氏の章 p.90-92