仏は遠い彼方にいるのではない
皆で食事をとり、ホテルに戻ったのは、午後八時ごろであった。伸一の発熱はまだ続いており、夜になると疲労感がつのった。
伸一たちがホテルの廊下を歩いていると、廊下の片隅に座り込んでいる数人の人たちがいた。婦人が四人に、子供が二人である。ケンタッキーからやって来た、日系人のメンバーであった。彼女たちは、地元に戻る前に、もう一度、伸一に会いたいと、彼の帰りを待っていたのである。
「どうして、廊下なんかに座っているんだろう。ロビーのソファで待っていればいいものを。人が見たら奇異に思うな」
石川幸男が舌打ちしながら、ボソボソと独り言のように言った。
伸一は、それには取り合わなかった。
「いやー、皆さん、どうしたの?」
伸一は、廊下に座って待っていた婦人たちに呼びかけた。
「先生! お会いできてよかった。どうしても、先生にご指導をお受けしてから帰ろうと思いまして……」
「そう、ご苦労様。それじゃあ、ぼくの部屋にいらっしゃい。ずっと、待っていてくれたんだね。疲れただろうね」
彼は自分の部屋に案内したが、皆は気を使い、部屋に入るのをためらっていた。
「さあ、遠慮なく、お入りください」
伸一は、丁重に彼女たちを招き入れた。皆、身なりもけっして立派とはいえなかった。しかし、伸一には、一人ひとりがアメリカを救いゆく尊き仏のように思えた。
仏は、どこか遠い彼方の国にいるのではない。娑婆世界という現実の、この社会にいるのである。仏は、悩み、苦しみ、喜び、生きる、人間の生命のなかに存在するのである。
伸一は、架空の仏ではなく、広宣流布の使命に生きる人間という仏に仕え、守ることが、会長としての自分の責務であると決めていたのだ。それが彼の信念であり、哲学であった。
語らいが始まると、子供がぐずり始めた。おなかを空かしているようだった。早速、清原かつが菓子をたくさん買って来て、子供に与えた。ケンタッキーからようやく交通費を工面してやって来たメンバーには、子供に菓子を買い与える余裕もなかったにちがいない。伸一は、清原のその心遣いがありがたかった。
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『新・人間革命』第1巻 「錦秋」の章 p.187-189